ヴァン クリーフ&アーペル 「the Spirit of Beauty」展を観て |
ヴァンクリーフ&アーペルは、ミステリー・セッティングと呼ばれる独自の石留め特許技法に特徴があります。
そこから生み出される美しいジュエリーの完成度に、定評があるハイジュエリーブランドです。
1906年、パリのヴァンドームの地にブティックが誕生して以来、約1世紀にわたり、最高の品質、華やかで芸術性の高いデザインは、モナコ王室をはじめ、古くから王侯貴族をはじめとするセレブリティに愛され続けてきました。
今回の展示は、その輝かしい100年のブランドの歴史を、フランス人建築設計家、パトリック・ジュアン氏の独創的な演出によって辿る、美の精神を追求する回顧展として開催されたのです。
今回の展示のアイコンである、トンボの妖精のクリップ(ブローチ)が約250点もの素晴らしいマスターピースが待つ会場へといざなってくれましたが、最終日目前の週末ということもあり、珠玉のコレクションをひと目見ようとする人で、会場は大変な賑わいでした。
グレース王妃、ジャクリーン・ケネディ・オナシス、マレーネ・ディートリッヒ、マリア・カラス、その他にもキラ星の、数多くのセレブリティに愛されたハイジュエリー。
アイコンともなっている、可愛らしい妖精(写真)のブローチやバレリーナのブローチ。
斬新なジップをモチーフにしたネックレス&ブレスレット。
その他にも楽しい、またはっとする感動がありました。
私が、展示を観て感じたことを少し書いてみたいと思います。
・デザインがかなり個性的で、独創性が強いこと
・展示されたピースは、メゾン所蔵のアーカイブコレクションやフランス国内外のプライベートコレクションからなりますが、アメリカの方からの貸し出しが多いこと。
・思ったより、真珠を使用したジュエリーが少ないこと。
・遥か彼方の国々から影響を受けたコレクションに独特の芸術性が感じられること。
・直線よりは、丸みを帯びた曲線美により強い印象を受けたこと。
などでしょうか。
コレクション自体は、本当に素晴らしいものであるにも関わらず、好きかと聞かれたら、勿論何点かのマイ・フェイバリットはあるにせよ、私はこのブランドのジュエリーには触手が動かない。
なぜだろうか?ずっと考えていました。
そして、その答えを考える上で、昨年の初夏に開催された、カルティエ展のジュエリーを観た時の感想と比較して少し書いてみたいと思います。
カルティエが長きにわたって受け入れられているのは、なぜでしょうか?
それは、各世代の流行と時代ごとに顧客が望むものについて、小難しい芸術家のような議論はさておきながら、若干のカルティエが持つエスプリをさりげなく作品に取り入れている無理のなさにあると思うのです。
言い換えると、時代の流れを巧みに取り入れて、ハイジュエラーとしての高い文化性を保ちながらも、顧客層の欲しい感覚を常に考えて物づくりをしている点だと思うのです。
だから一族が経営から退いてから今日に至るまで、このブランドほど、企業としての成功とジュエリーの創造の両方を、維持し続けている企業はないのでしょう。
では、ヴァンクリーフ&アーペルは、どうでしょうか?
その独特のデザイン性は、時代のニーズや顧客の好みに迎合したりするのではなく、常に高いところにハイジュエラーとしての芸術性をより多く求めているからだと思うのです。
カルティエが独自のエスプリを効かせている割合が商品全体の20%だとしたら、私は、ヴァンクリーフ&アーペルの作品に宿るエスプリは、50%くらい詰まっているのではないか、そんな風に思ったのです。
だから、カルティエの作品には、日本人の私でも“共感”や“親しみやすさ”を感じるのですが、ヴァンクリーフ&アーペルの作品には、“孤高”や“わが道を行く”部分を強く感じてしまい、受け入れるのがなかなか難しい、そのように思ってしまうのです。
昔、クラスにいた、優しくて、勉強もスポーツも出来るクラスの人気者がカルティエならば、いつも本を読んでばかりいて、友達は少ないけど、いざ芸術論なんかを語らせたら凄い知識を披露して皆に一目置かれるような友人が、例えて言うならば、ヴァンクリーフ&アーペルといったような感じです。
今回、個人で所蔵している人にアメリカ人が多いのは、パリの媚びないオシャレ、エスプリに憧れた新興国のアメリカ人が得た富で買い漁ったのは合点が行くのです。(これはあくまで私感です、間違っていたらごめんなさい)
顧客に媚びない、高い独自の芸術性の追求と表現力、そしてそれを形にするクラフトマンたちの高い技術。
この2つが絶妙に重なってこそ、世界の顧客のマインドに、ブランドが持つ強い主張が届いて、魅了する。
つまり、それがヴァンクリーフ&アーペルの真髄“The Spirit of Beauty”ではないかと。
そんなことを考えながら会場を後にしました。
Ken