サッカーワールドカップ南アフリカ大会とスカラベジュエリー |
これから約1ヶ月、熱い戦いが繰り広げられますね。
今大会は、何と言っても、アフリカ大陸初開催が一つの目玉でしょう。
開会式の映像をテレビで見ました。
オリンピックなど世界大会の開会式の様子は、開催地の文化、伝統等を知る上でとても興味深いものです。
頭の周りを蜂がブンブン飛んでいるような、民族楽器ブブゼラの大音量がやけに耳につきます。
その中で、私をはっとさせた映像は、スカラベが、今大会の公式ボール「ジャブラニ(JABULANI)」を糞に見立てて、後ろ足で転がしている様子でした。
この「ジャブラニ」は、南アフリカの公用語の一つ、ズール語で「祝杯」を意味するそうです。
まさに記念すべき、アフリカ大陸初のワールドカップ開催に相応しいネーミングですね。
さて、私が驚いたのは、南アフリカを代表する象徴の一つとして、開会式に、昆虫、スカラベの巨大模型が登場したからです。
ジュエリーの歴史に興味のある私にとって、このモチーフは大変想像力をかき立てるものなのです。
では、このスカラベ(scarab)とはどのような昆虫なのでしょうか?Wikipediaより引用しますと、
「甲虫類のコガネムシ科にタマオシコガネ属の属名及びその語源となった古代エジプト語。主に哺乳動物の糞を転がして球状化させつつ運び、地中に埋めて食料とする。古代エジプトでは、創造神ケプリの象徴とされ、太陽神と同一視された聖甲虫であり、再生、復活の象徴として崇拝されている。」
とあります。
南アフリカも古代エジプト同様に、太陽神と同一視されたこのスカラベを崇拝しているのでしょうか?
糞を太陽になぞらえて、それを転がすスカラベを神聖な甲虫として崇拝した古代エジプト。
そして、ジュエリーのモチーフとして使われたスカラベ。
今回は、このスカラベに纏わるジュエリーについて、少し書いてみたいと思います。
≪古代エジプト(c.2850~525B.C.)のジュエリー≫
古代エジプト時代のジュエリーを紐解くためのキーワード、
一つには、「王と神を荘厳化するための装身具」であったことです。
古代エジプトは、「政教一致国家」でした。
王であり神である同一人物を荘厳化します。
その死後は神殿や葬祭殿に埋葬して、カーと呼ばれる魂が帰るのを待つ、遺体を飾る品物でした。
従って、美術品の中でも極めて大きな地位を占め、墓地に埋められたこともあって膨大な数の装身具が今に残っているのです。
これは、発掘の度に、保存状態がよいことで話題になりますね。
もう一つには、「象徴性を持つモチーフと鮮やかな色彩」でしょう。
驚くべきことに、現在使われているジュエリーの殆どは、ブローチを除いて、この古代エジプトに登場するのです。
素材は、金が中心。
宝石類は、色の鮮明なラピスラズリ、コーネリアン、トルコ石など。
最も特徴のある素材は、「ファイアンス」と呼ばれる一種の焼き物です。
これは、石英の粉末に油を加えて成形し、その上に色釉をかけて焼いたものなのです。
使われているモチーフは、全て何らかのシンボルなのです。
天空の神にして王権の守護神…ホルス
天地創造の神、また糞を丸めて転がすことから太陽神を象徴…スカラベ
高みにあることから神のシンボル…鷹
豊穣と来世での生まれ変わりのシンボル…蓮の花
英知のシンボル…パピルス
特に、エジプト人は、太陽は毎日生まれて死に、翌日には新しい太陽が生まれてくると信じたのです。
今も残る、古代エジプト時代のジュエリーは、神仏の像やその祭壇を美しく飾る道具類の一種です。
その中でも中心となる装身具のうち、代表的なものは「ペクトラム」と呼ばれる大振りの胸当状のペンダント。
そこには、上記の、象徴的なモチーフがこれでもかというくらいに施されているのです。
古代エジプト時代のジュエリーは、デザインこそ神と宗教に支配されていました。
しかし、ジュエリーに使われている技術とその精度の高さは、これが人類最古のものとは思えないほど、見事なものとして現代の我々を驚かせるのです。
その後、古代エジプト時代に使用されたモチーフが、時を経て再び脚光を浴びる時がやってきたのです。
≪歴史主義ジュエリーによるリバイバル(19世紀後半)≫
ヴィクトリア時代の半ば(19世紀半ば)頃から、歴史と過去の遺物に対する関心が高まりました。
イタリア各地の遺跡からエトルリアや古代ローマの遺物の出土
スエズ運河の掘削工事やアッシリア遺跡の発見
シュリーマンによる発掘
これらは、ジュエリー市場が拡大してきた19世紀後半、新しいアイデアを求めていたジュエリー製作者にとっては最良のニュースとなったのは言うまでもありません。
このような過去の文物の技術やデザインを取り入れて作られたジュエリーを「歴史主義」または、「考古学様式」のジュエリーと呼びます。
中でも、1860年代末になるとスエズ運河の完成もあいまって、エジプトへの関心が再び高まり、エジプトのモチーフを用いたジュエリーが多く作られたのです。
その中には、スカラベやパピルスなどをモチーフとしたジュエリーが数多く作られたのです。
新しいアイデアを過去や異国に求める傾向は、その後にやってくる「アール・ヌーヴォー」や「アール・デコ」の時代にまで受け継がれました。
≪アール・デコにおける異国文明の影響(1920年代)≫
1922年カーナボン卿とハワード・カーターの協力により、エジプト王家の谷で、ツタンカーメンの墓が開けられました。
この出来事は、世界中に興奮を巻き起こす考古学上最も重要な発掘の一つでした。
世界的にエジプト趣味が、再び流行し、当然ジュエリーデザインに影響を及ぼしたのです。
ピラミッド
スフィンクス
オベリスク
蓮の花
スカラベ
象徴文字をはじめとするヒエログラフなど
これらのモチーフを活かしたエジプト趣味のジュエリーが、カルティエ、ブシュロン、ヴァン・クリーフ・アンド・アーペルなどの保守的なジュエラーの作品の中で、1920年代に多く見られます。
私は、1995年、2009年のカルティエ展に行きましたが、その展示の中で、エジプト発掘により、インスパイアされたジュエリーの数点を楽しむことが出来ました。
『カルティエ製スカラベ・ブローチ(1924年) The Art of Cartier1995より転用』
特に、このスカラベをモチーフにしたジュエリーは、アール・デコという、「斬新さ」が求められた時代において、デザイナーの創造性を大いに掻き立てたのは言うまでもないことでしょう。
古代エジプトより崇拝された、このスカラベが、時代を超えてジュエリーモチーフとして、人々を魅了しているのは大変興味深いことですね。
Ken
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宝石、ジュエリー世界史(世界歴史)
芸術家、アーティスト(芸術)
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