「貴婦人と一角獣展」を観て |
中世ヨーロッパ美術の最高傑作との誉れ高い連作タピスリー「貴婦人と一角獣」。
この作品群は、現在フランス国立クリュニー中世美術館に所蔵されています。
<フランス国立クリュニー中世美術館>
過去に一度だけ(NYメトロポリタン美術館)しかフランス国外に出たことがないという貴重な美術品。
そんな貴重なお宝をこの目で観ることが出来て本当に幸せでした。
この「貴婦人と一角獣」タピスリーは、1500年頃、北フランスから南ネーデルランドにかけての地域、もしくはパリで制作されたものと考えられています。
ここで、少しタピスリーの歴史について触れてみたいと思います。
タピスリーは、後期中世から近世にかけてヨーロッパの宮殿や城館の壁面を彩る豪奢な装飾品の一つでした。
タピスリーの伝統は古く、古代オリエント美術にまでその起源が求められますが、ヨーロッパでは、14世紀後半にその制作が一般的となりました。
綴織(つづれおり)の表現技術が飛躍的に向上したこととフランドル地方や北イタリアにおける絹産業や羊毛産業が興隆したことによって、タピスリーは15世紀、16世紀にその最盛期を迎えました。
タピスリーは、繊維という性質上、石造りの宮殿や城館においては、耐寒や耐湿、そして部屋と部屋とを仕切るための間仕切りとして使用されました。
やがて王侯貴族が主な発注主となっていくと、季節や行事に応じて掛け替えられ、居所の移動の折に巻いて運ばれました。
また実用的である一方で芸術作品としての価値が加えられました。
タピスリーには宮殿や城館の空間を美しく彩る装飾的な役割が加えられたのです。
持ち運びが便利な可動的壁面装飾としてのタピスリーはヨーロッパに広範に広がったのです。
展示室に入ってほどなく進むと、大きな一室に、この6枚のタピスリーが突如現れました。
来館者を取り囲むように、一枚一枚が隣のタピスリーと少し間隔をあけて、壁にかかって展示されていました。
圧巻!
観る者すべてを圧倒するくらい一枚一枚のサイズは大きいものでした。
左手から時計回りに、
<触覚>
<味覚>
<嗅覚>
<聴覚>
<視覚>
各タピスリーの構成は、シンプルで効果的ないくつかの原則に基づいていました。
赤い千花文様(ミル・フルール)を背地として、草地を表す緑色の島があり、そこに花々や動物が散りばめられていました。
そして旗を携えた獅子や一角獣という動物たちが、貴婦人を周りから切り離していたのです。
登場する貴婦人と侍女の二人は、その堂々としたポーズ、豪華な衣装、豊かな宝飾品、凝った髪型などから、想像上のあるいは寓意的な人物であることは、明らかで、そこに五感と第六感の表現を見るのでした。
これらタピスリーは、中世における「感覚の序列」、「尊厳に値する五感の順位」、つまり魂とどれくらい近いかによって決まる序列が存在し、タピスリーはその順番に並べられていたのです。
私が一番興味を持ったのは、やはり、6枚目の『我が唯一の望み』。
<我が唯一の望み>
触覚から視覚へと発展した五感は、やがて『我が唯一の望み』で最高点に達するのです。
この『我が唯一の望み』には、二つの意味が与えられています。
一つの解釈は、五感を越えた、魂あるいは精神世界に最も近い第六感。
これは、ある意味、五感を放棄した、≪自制という意味での自由意志≫を説明するものとして解釈され、『我が唯一の望み』は「我が唯一の意志」を表しているのです。
私が着目したのは、この『我が唯一の望み』=「我が唯一の意志」を象徴するモチーフとして、宝石箱そしてそこから豪華なジュエリーを取り出している(しまわれている)図案が描かれている点です。
五感を超越した「高い精神世界」を表現するために、比喩としてジュエリーを使ったことは、とても意味深いなと感じたのです。
それは、ジュエリーには、何者も侵し難い「気高さ」という側面を兼ね備えているからなのではないかと思うのです。
また、一方で、タピスリーに縫い込められた「A.MON.SEUL.DESIR.I」という銘文を読解するに、AとIがイニシャルを表し、二人の婚約者あるいは、夫婦のイニシャルであるという見方も存在します。
もう一つの解釈は、≪二人の愛≫。
だとすると、美を具現化するため、そして愛を表現する手段として、豪華なジュエリーが愛の比喩として用いられたとしたら、それはそれで興味深いことだと感じたのです。
Ken
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宝石、ジュエリー世界史(世界歴史)
芸術家、アーティスト(芸術)
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